[研究開発AtoZ]健康食品との付き合い方

[研究開発AtoZ]健康食品との付き合い方

食品業界の中でも、マーケティングやセールスからすると近いようで遠い存在の研究開発職。FoodClipでは現役の研究開発職に就かれている「じゃぐさん」に、開発職の基本や最新情報などをお話いただく連載企画。今回は前回に引き続き、健康食品について解説いただきました。


前回の記事では、「健康食品の制度と仕組み」ということで、健康食品をリリースする際に企業側の目線で注意すべき点などをまとめましたが、今回は逆の視点のお話をしていきたいと思います。

生活者は健康食品を選ぶ際に、どのようなことに気をつければよいのでしょうか?

効果がありそうな広告を見かけたから?売り上げが多いから?値段が高くて効きそうだから?… 健康食品の選び方はとても難しく、私自身も迷うことが多々ありますが、研究者側の目線でどのようなポイントを押さえればよいかをまず簡単にまとめてみました。

  1. 自分がどうなりたいのか目標を立てる
  2. 有効性だけでなく安全性も頭に入れる
  3. 狙いを定めて自分自身で徹底調査する
  4. 摂取量や摂取期間等の目安を確認する
  5. 同じ食品成分でさまざまな製品を見比べる
  6. 摂取して体に異常が出たら即中断する
  7. 摂取継続を判断する基準を明確にする

では、それぞれ詳しく解説していきましょう。

1.自分がどうなりたいのか目標を立てる

まず大切なのは、目標を立てること。
健康食品と言っても期待できる機能はさまざまなので、「なんとなく健康になるかな」くらいであれば、健康食品に頼らずに食生活を意識する方が確実に効果的です。ここで言う「機能」とは、例えば以下のようなものが挙げられます。

・寝つきが悪いので睡眠の質を上げたい
・健康診断で血圧が高めと言われた
・便秘気味で腸内環境が気になる
・効率的に筋肉をつけたい

さて、もしあなたが以下のような目標を考えているなら、回れ右で帰りましょう!

・栄養バランスの偏りや運動不足をチャラにしたい
・病気になったけど病院に行かずに治したい
・楽をしてすぐに痩せたい

健康食品を考える前に、まずは食事の栄養バランスを整え、適度な運動や十分な休養をとることの方が重要です。

そして、健康食品の臨床試験で病気の方を対象にすることは絶対にありませんので、病気が治る保証は一切ありません。具体的な事例でいうと、血圧がやや高めの方を対象にした試験は実施しても、高血圧症(数値基準があります)の方に効くかは分からないので、病気と診断されたら健康食品で治そうと思っては絶対にダメです。

それらを踏まえながらまず自分がどうなりたいか、どんな機能が欲しいか、目標を設定することが第一段階!

2.有効性だけでなく安全性も頭に入れる

1.が決まったら続いてその目標を達成できそうな食品成分を探しましょう。

どうしても「効くかどうか(=有効性)」の観点で調べてしまいがちですが、必ず「健康被害がないか(=安全性)」の観点を押さえておくことが大切です。

「食品だから絶対安全」「薬じゃないから副作用はない」と思ったら大間違い!健康食品でよく「ぎゅっと濃縮している」という謳い文句がありますが、一般の食品ではありえない量の高濃度で摂取してしまい、思いもよらない健康被害が起きる可能性は十分にあります。

ちなみに、前回紹介したトクホや機能性表示食品は安全性に関する評価もクリアした物しかないので、効き目の点だけでなく健康被害の観点でも安心材料になるはずです。

3.狙いを定めて自分自身で徹底調査する

さて、いよいよ探してみましょう!ドラッグストアなど店頭で探してもいいのですが、やはりまずはインターネットで調査した方がスムーズです。

検索すると色々と出てきて悩んでしまうと思いますが、広告のキャッチコピー、利用者の体験談、友人知人からの伝聞などを全て信用するのではなく、自分自身で徹底的に調査することが大切です。

前回ご紹介したトクホや機能性表示食品であれば、各企業が情報をまとめていたり消費者庁が届出資料を公開したりしているので、そちらを見るのも良いと思います。

ただ、これらの許可申請をおこなっていない健康食品も多数あります。そんな時におすすめなのが、厚生労働省所管の国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所の運営している食品成分の安全性有効性データベースです。

第三者機関による調査結果が載せられており、情報量の多さや公平性など様々な観点でこちらのサイトをまず確認することをお勧めします。


▶「健康食品」の安全性・有効性情報:https://hfnet.nibiohn.go.jp/contents/indiv.html

4.摂取量や摂取期間等の目安を確認する

調査の基準のひとつとして、摂取量や摂取期間があります。

健康食品は明確に効果効能を謳うことができないので、摂取量やタイミングを明言していない場合もありますが、「目安量」という形で記載してくれている場合も多いです。これもトクホや機能性表示は記載があるので安心。

「これより少ないと効かないけど、これ以上摂取し過ぎると健康被害が懸念される」という絶妙なバランスの上に設定されているので、目安量は必ず守ってください。

特に錠剤・カプセル状の製品は過剰摂取になりがちなので、よく効きそうだからと過剰に摂取することは禁物です。

さらに、どのくらいの期間摂取すべきかも合わせて調査します。例えば、飲めば速攻で疲れがとれそうな見せ方をしているにもかかわらず、臨床データとしては4-8週間摂取した際のデータを出していたり、場合によってはデータすら出していなかったりということもあります。

きちんと想定しているような摂取期間か、それだけの期間自分は続けられるのかも考えながら選んでいきます。この摂取期間は調べても出てこないこともあるかもしれませんが、一度飲んで即効果を示すようなものは少ないので、例えば1ヶ月程度などある程度続ける想定が必要です。

5.同じ食品成分でさまざまな製品を見比べる

4.までで試したい成分が決まったところで、次は各社の製品を見比べてみましょう。

値段が高い方が効果がありそうな気がしてしまいますが、そんなことはありません。高い方がいろいろ他の成分が豊富に入っていたとしても、それらに効果がある保証はありません。

トクホや機能性表示ではあり得ませんが、「種類がたくさん入っている=それぞれの成分は薄くて効果が期待できる量ではない」なんてこともあり得るので、狙った成分が狙った量で入っていることが大切です。

さらに、もうひとつ比較すべきポイントは、製造者や問合せ先が明記してあること。何か問題があった時に問い合わせができるというのはもちろんですが、きちんと責任をもって販売している証拠でもあります。

海外から独自で輸入される方もおられるようですが、品質の確認など問い合わせることが困難なので、そこを理解する必要性があります。

6.摂取して体に異常が出たら即中断する

いよいよ摂取の開始です。効果があるかどうか楽しみなところですが、ここでもまずは健康被害に気をつけしましょう。

じんましんが出た、おなかが痛い、なんとなく不調など、たとえ気のせいであっても少しでも違和感を覚えたらいったん摂取をやめるべきです。ただの食品だから大丈夫だろうとか薬ではないから副作用なんて存在しないという過信は持たず、やめる勇気も必要です。

ちなみに一般的に「好転反応」と呼ばれるような、最初は不調が出るけどじきに好転して体が良くなっていく、といった現象は通常あり得ません。不調が出たら即中断が吉です。

7.摂取継続を判断する基準を明確にする

ついに最後のポイント!なりたい姿に近づくため健康食品を継続して摂取するのですが、例えば「◯ヶ月間続けてみて、△という効果が体感できなければやめよう」といったような撤退基準を設けてみてはどうでしょうか。

基準を決めることが大切であるのは、以下二つの理由です。

まずは漫然と続けてしまうのを防ぐこと。効いているかどうかも分からないのに続けてしまうのは時間とお金の無駄!4.で調べた摂取期間や、あるいは1箱分でもよいので、期間を区切ってみて「期待する効果」が得られたか振り返ってみましょう。

そしてもう一つの理由は、期間が決まっていると継続しやすいということです。健康食品を毎日欠かさず摂取するのは案外難しいこと。「期待する効果」が得られるまで時間がかかる場合も多いので、めげないように終わりを決めておくのは精神的にも楽になります。

ちなみに何度か出ている「期待する効果」というのは、なりたい姿に近づいているかということなので、1.できちんと最初に設定するのがここでも生きてきます。

また、6.でなんとなく不調というのがダメだったのとは逆で、よくわからないけどなんとなく調子が良い気がするという体感も案外馬鹿にできません。

体脂肪や血圧など数値で表すことができるものは、明確な目標を立てやすいですが、数値化の難しい訴求(疲労感など)も多くあるので、やめ時は難しくなりますがなんとなくでも続けていただく価値はあるはずです。

まとめ

今回は研究者の立場から生活者の皆さんに健康食品とどのように付き合っていただきたいかという視点でまとめてみました。

ここまで全て考えることはなかなか難しいですが、ぜひ迷ったときには1〜7.のポイントを参考にしてみてください!

前回の末尾にも書きましたが、健康食品はあくまでも正しい食生活が大前提としてあって、その上でその人に合った機能を求める場合に真価を発揮するのであって、食生活が乱れていても健康食品が免罪符になるなんてことはあり得ません。

日常の食生活、運動、休養をしっかり整えつつ、楽しくて効果的な健康食品ライフを!



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著者情報

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じゃぐ
食品メーカーの現役研究員。基礎研究から商品開発まで幅広い業務経験を持ち、学生時代から栄養学や薬理学を専門とするなど、一貫して食と健康の課題に取り組んでいる。科学全般や理系就活生向けの話題もSNSで情報発信中。
https://twitter.com/food_juggle