もっちり食感が主流に?時短パスタがもたらした変化

もっちり食感が主流に?時短パスタがもたらした変化

90年代に流行した「ティラミス」、数年前に話題になった「おにぎらず」、直近では社会現象にもなった「タピオカ」など、日々生まれている食のトレンド。なぜブームになったのか、その理由を考えたことはありますか? 作家・生活史研究家の阿古真理さんに、その裏側を独自の視点で語っていただきました。

                                       毎日の食卓を楽しくする「料理の知恵」メディア【クックパッドニュース】より

時短料理と言えばパスタ。
でも大人数分作るのは意外と大変?

時短レシピのブームは2010年代後半から続いているが、外食が困難になったコロナ禍で、切実に必要とする人が増えている。最近の時短レシピの中には、革命的なほど進化しているものがあるが、特に驚かされるのが、パスタのレシピである。

1年前の緊急事態宣言下では、スーパーの店頭からスパゲッティやインスタントラーメンが消え、冷凍パスタや冷凍ラーメンもよく売れた。

確かに、麺類は1品で食事が成立するので、手間をかけたくないときによく使われる。土曜日の昼ご飯がいつも麺類だった、という思い出を持つ人は多いのではないか。また、1人暮らしだとご飯が余ってしまい、なかなか炊き立てが食べられないことを思えば、パスタやラーメンで済ませたほうが楽な場合がある。

しかし、家族の人数が多いと、一度に全員分作れないことがある麺類は、必ずしも時短になるとは言えない。スープ作家の有賀薫さんは『スープ・レッスン2――麺・パン・ごはん』(プレジデント社)のエッセイで「5人家族の麵メニューを家庭の台所で作るのは大仕事。せわしないだけでなく、母が全部をととのえて食べ始めるころには、もう家族は食べ終わっています」と書く。

段取りも大変である。麺をゆでる。具材を炒める、あるいは煮る。うどんなら出汁も別に準備するなど、いくつもの作業を並行して行う。具材、出汁、麺それぞれを調理する鍋、麺をあけるザルも必要、となればかさばる洗いものが大量に発生する。手軽に見えて実は手間がかかるのが、麺料理である。

水漬けパスタやレンチンパスタ。
時短で「もっちり食感」が主流に

そんな現実を踏まえたうえで、パスタの時短レシピを点検すると、驚くことが起きている。『オレンジページ』や『クックパッドニュース』は、2015年10月に水漬けパスタを紹介。パスタを乾物として水で戻しておくので、ゆでる手間がいらない。ただし、少なくとも2~3時間前には漬けておく必要があるので、急に思い立って作る場合は間に合わないが。そうした特性を逆に利用する方法が、『クックパッドニュース』2015年10月28日配信の検証記事に挙げられている。「朝家を出る時に漬けて、夕方帰宅して茹で時間なしで調理する」。なるほど、それなら手間いらずになる。

オレンジページ社の『「いま」作りたいものが全部ある!フライパンひとつ おかず、パン、スイーツ97品。』の水漬けパスタのレシピで、作り方を確認しよう。具材を炒めたフライパンにスパゲティとその戻し汁を加え、加熱しながら炒める。ソースを絡めるうちにスパゲティに透明感が出て、生パスタのようなモチモチ食感に仕上がるという。

同書には別の時短パスタレシピもある。それは、フライパンで具材と一緒に煮込む方法だ。「湯きりいらずパスタ」で作る「ミートソース風スパゲティ」は、次のように作る。フライパンにオリーブオイルとニンニクを入れて熱し、水、塩を加えて煮立て、スパゲティを入れる。よく混ぜて煮立たせたらふたをし、しばらくゆでてからふたを取ってスパゲティをほぐし、具材を加えて全体を混ぜながら煮詰めていく。最後にトマトケチャップと粉チーズを加えて、よく混ぜてできあがり。

こちらは食感の説明がなかったので、自分でつくってみた。私がつくったのは春野菜のペペロンチーノ。ニンニクとトウガラシをオリーブオイルで熱して春キャベツ、新タマネギ、アスパラを加えて軽く炒める。湯と塩を加え、煮立ったら先のレシピと同じように、スパゲティを煮る。シラスを振りかけ全体を混ぜてできあがり。

ふだんは、パスタと具材を別々に作る。最後にパスタをフライパンに戻して軽く炒めるので、ちょっとパリッとする。フライパン一つでつくったパスタは、何と言っても完成が速い。途中でふたをするせいか、ゆで上がるまでの時間も短い。そのせいもあって、サラダや紅茶用の湯を沸かすなどの並行調理でもたつき、ゆで時間が長くなってしまった。パスタの大変さは、すべての料理を同時に完成させる段取りが難しいところにもある。もちろん、サラダやパンを作らなければラクだっただろう。

ともかく、できあがったパスタはもっちりしていて、喫茶店のナポリタンを連想させた。子どもが喜びそう。「これは別物ですね!」と夫は面白がっていた。

電子レンジに具材と一緒に入れて完成させるレシピもある。電子レンジのパスタレシピを開発した山本ゆりさんの『syukonカフェごはん レンジでもっと!絶品レシピ』(宝島社)では、パスタを半分に折って耐熱容器に入れ、具材と一緒に電子レンジで加熱し完成させる。

どのレシピも、汁に漬かった状態でパスタをゆで上げて完成とするので、おそらくモチモチ食感になる。それは、日本人がパスタを採り入れた頃の原点に戻ったようでもある。

今も人気の昭和スタイルのナポリタンは、ゆでて一晩冷蔵庫で寝かせることが、ナポリタンらしい食感の要因である。そのレシピを開発したのは、横浜・桜木町「センターグリル」。それが喫茶店などに広まり定着した。また、昭和30年代には、パスタをうどんのようにゆでた後、水で締めるレシピが紹介されていた。その結果、多くの日本人はうどんなどでなじみがある、柔らかくてもっちりした食感から、スパゲティの味を覚えたのである。

バブル期にイタリア料理が流行り、中に芯を残すアルデンテが広がってから、私たちはシャープな食感のパスタをずっと味わってきた。それがここへ来て、時短レシピとともにモチモチパスタが流行している。もしかすると、将来は「あなたはパスタ、モチモチ派? アルデンテ派?」と聞かれるようになるかもしれない。


画像提供:Adobe Stock



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著者プロフィール

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阿古真理
1968(昭和43)年、兵庫県生まれ。作家・生活史研究家。神戸女学院大学卒業。食や暮らし、女性の生き方などをテーマに執筆。著書に『平成・令和食ブーム総ざらい』『昭和育ちのおいしい記憶』『昭和の洋食 平成のカフェ飯』『小林カツ代と栗原はるみ』『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか』『パクチーとアジア飯』など。