[お茶の話と、私たち]うま味と香りが豊かな新茶の魅力

[お茶の話と、私たち]うま味と香りが豊かな新茶の魅力

食や料理への「偏愛」を語ってもらうHolicClip。日本茶インストラクターで、株式会社 茶淹の代表取締役でもある伊藤尚哉さんの連載[お茶の話と、私たち]。今回は、新茶について語っていただきました。

前回の記事はこちら:https://foodclip.cookpad.com/8410/

新茶とは

初鰹や新米があるように、お茶にも一年に一度、旬のおいしさが楽しめる「新茶」があります。新茶とは、その年の最初の新芽を摘み取ってつくられたお茶のことで、一番茶とも呼ばれます。

チャノキ(茶の樹)は冬の間、休眠しながらたっぷりと養分を蓄え、その養分を力にして、春になって気温が上がる頃に一気に芽吹きます。厳しい冬を間にじっくりと蓄えた豊富な栄養素が詰まっているため、新茶は特有の爽やかな香りと豊かなうま味に溢れています。

今回はそんな新茶の魅力や、これから季節にぴったりの冷茶を楽しむ新茶の淹れ方などをご紹介していきます!

夏も近づく八十八夜

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お茶は、チャノキから伸びてきた新芽を摘み取って製品にします。摘んだ後もまた伸びてくるので、1年に3~5回の収穫が可能です(秋頃になって気温が下がると休眠に入ります)。

日本茶のうま味成分であるテアニン(アミノ酸)は、一番茶に多く含まれ、二番茶、三番茶になるにつれて含有量が減少していくため、うま味が強く若葉のような爽やかな香りのお茶を楽しむには一番茶である「新茶」がおすすめ。

新茶の収穫は暖かい地域からはじまり、桜前線のように北上していきます。鹿児島の平野部では4月中旬、静岡でも5月に入ると新茶の収穫がはじまります。

唱歌「茶摘み」では、「夏も近づく八十八夜…」という歌い出しがよく知られています。八十八夜とは、現代の暦で5月1日~2日のことで、まさに新茶のシーズン。

八十八夜とは、2月の立春から数えて88日目の5月2日前後。立春は中国から伝来した暦、二十四節気のひとつです。1年の季節の移ろいを24に分けた二十四節気は、古来から農業や林業に携わる人々の間で、日々の営みの目安とされてきました。二十四節気で1年の始まりにあたる立春は、吹く風が暖かく変化し、山から雪解け水が流れる春のはじまりの季節。そこから88日を数えた八十八夜は、農業における種まきの目安であり、お茶農家にとっては新茶の時期でもあるのです。

地域によって異なる
新茶の収穫時期と産地の特徴

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温暖な気候の鹿児島県では4月上旬から新茶が摘まれますが、冷涼な地域では八十八夜を過ぎることも珍しくありません。また、新茶の時期とともに茶園によって異なるのが収穫の回数です。収穫時期が長い南九州では、三番茶から四番茶まで摘まれることもあります。しかし、農家によっては二番茶で収穫を終え、来年の一番茶に備えてチャノキを切り戻すなど栽培スタイルは実にさまざまです。

4月上・中旬に新茶の収穫がはじまる鹿児島や静岡の平野部の産地の二番茶の収穫は、新茶収穫の約2ヶ月後の6月上・中旬。三番茶の収穫は、約1ヶ月半後の7月中・下旬頃になります。

新茶の淹れ方

新茶のおいしさは、うま味成分テアニン(アミノ酸)の豊富さ。テアニンのうま味と、タンニンの渋みのバランスがおいしさのポイントです。
渋み成分のタンニンは高温でよく溶出されるため、うま味と適度な渋みの両方を楽しむには、70℃程度のぬるめのお湯でじっくり抽出のがおすすめです。


① 沸騰させたお湯(150〜180ml)を湯のみに注ぐ。
一度湯のみにお湯を注ぐことで、お湯の温度を少し冷まし、湯量を計量することができます。

② 急須・ティーポットに茶葉を5g入れる。

③ 湯のみに入っているお湯を、急須・ティーポットに入れる。
湯のみにお湯を注いで1分ほど待つと、湯気の立ち具合が穏やかになり、お湯の温度が10℃ほど下がります。(90℃→80℃)

④ 蓋をして、1分待つ。

⑤ 最後の1滴まで注ぎ切る。
二煎目以降は、待ち時間なしでお湯を入れたら、すぐに湯のみに注ぐ。

水出し煎茶の淹れ方

低温でじっくり淹れる水出し煎茶は、苦味成分の「カフェイン」渋み成分の「カテキン」といった高温で抽出されやすい成分の侵出を抑えることで、低温でも抽出されるうま味成分の「テアニン」の味わいを楽しむことができます。


① 7〜8gの茶葉をボトルに入れる。

② 冷水500mlを注いで約2〜3時間待つ。
5〜6時間以上抽出するとより深みのある味わいになります。

③ 飲む前にボトルを数回傾けて静かに茶葉を攪拌させたら完成。

オンザロック(急冷)の淹れ方

水出しだけでなく、熱々のお湯で少し濃いめに淹れたお茶を氷の入ったグラスに注ぎ、急冷するオンザロックも冷たいお茶の楽しみ方としておすすめです。同じ茶葉を使っても低温で淹れる水出しとは違った味わいを楽しむことができます。


① 急須・ティーポットに茶葉を5g入れる。
一度お湯を湯のみなど別の容器に注ぎ、湯冷まししてもOK。湯冷ましをしない熱々のお湯で淹れる方法より、うま味が強い味わいになります。

② 急須・ティーポットにお湯(120ml)を注ぐ。

③ 蓋をして、1分待つ。
少し湯冷ましする場合は、1分半くらいがおすすめ。

④ 氷が山盛りに入ったグラスに最後の1滴まで注ぎ切る。


茶葉の量や待ち時間によっても味わいが変化します。ぜひご自身のお好みの濃さに調整してお楽しみください。

全国のおすすめの新茶をご紹介

5月上旬になると、全国各地のお茶屋さんやお茶農家さんから新茶販売開始のお便りが届きます。お茶好きの皆さんは心待ちにしていた新茶にワクワクする気持ちと「今年はどこのお茶を買おうかな…?」と頭を悩ませる時期でもあります。

僕も今年は少し抑えめにしよう…と思いつつ気付けば各地からたくさんのお茶を買い占めてしまっていました。そこで、今年買って個人的にとても好きだったお茶をいくつかご紹介いたします。


清ざね茶園(鹿児島)

「清ざね茶園」がある鹿児島県曽於市末吉町は、宮崎県との県境に位置し、都城盆地に属する山間の土地です。一日の気温の寒暖差が大きく、お茶作りに適した気候、土壌を備えています。

大産地である鹿児島県の中では、比較的小さな産地ですが、それでも、国内外のコンテストや品評会で多くの受賞歴があり、稀少かつ品質の確かなお茶を作っています。

渋みが少なく、力強いうま味が特徴のお茶。今年新たに作った「誉印」は、特徴が存分に感じられる至極のお茶でした。「あさのか」と「つゆひかり」という2種類の品種をバランスよくブレンドした「誉印」は、うま味だけでなく、爽やかな香りと、華やかさも感じる後味の清涼感が特徴でとても飲みやすく、普段あまりお茶を飲まれない方にもおすすめのお茶です。

深蒸し茶「誉印」


足久保ティーワークス(静岡)

静岡県葵区、安倍川の支流足久保川の流域にあるお茶の産地足久保(あしくぼ)は、「静岡茶発祥の地」としても知られています。

今から約800年前、鎌倉時代の僧「聖一国師(しょういちこくし)」が宋(中国)から持ち帰った茶の実を、中国の茶産地と似た地形の足久保に蒔いたのが静岡茶の始まりとされています。

平成9年に足久保のお茶農家が約50軒集まり発足した「足久保ティーワークス茶農業協同組合」には、煎茶やほうじ茶、和紅茶など、さまざまな種類や品種のお茶が取り揃えられています。

その中でも「山の息吹」という希少品種のお茶がとても好きでした。「山の息吹」は比較的、渋み成分が少なく、うま味成分が多く含まれている品種のため、新茶らしい清涼感に加え、濃厚なうま味を楽しむことができました。水出しにもぴったりのお茶です。

新茶 深蒸し茶 山の息吹(リーフ80g入)


茶園森福(京都)

京都府和束(わづか)町の自社農園で煎茶や抹茶、ほうじ茶などを生産している個人農家の「茶園森福」は、山間地のお茶の特徴を活かす宇治伝統の浅蒸し製法のお茶を生産しています。

和束町で生産されるお茶は「和束茶」と言われ、この地域は栽培環境に恵まれた条件を生かし、古くから蒸し時間が短い浅蒸し製法で仕上げた香り高い煎茶を栽培しています。

日本で栽培されるお茶の約7割を占める代表品種「やぶきた」を使用した「茶園森福」の新茶『やぶきた 煎茶』は、瑞々しい若葉の香りと爽やかな甘みといった産地の特徴が感じられるお茶でした。適度な渋みもあり、淹れる温度によっても味わいの幅が広がる奥深さも楽しめます。

【2021年新茶】煎茶 - やぶきた(80g)

今回ご紹介した各地のお茶は、どの淹れ方でもおいしくいただけます。気になったお茶があったらぜひご自宅でお楽しみください。



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著者情報

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伊藤尚哉
株式会社 茶淹 代表取締役

1991年愛知県出身。24歳のときに日本茶のおいしさに魅了され、2016年から名古屋の日本茶専門店・茶問屋に勤務。
2018年日本茶インストラクターの資格を取得(認定番号19-4318)愛知県支部役員
2019年日本茶ブランド「美濃加茂茶舗」の立ち上げに参画、店長に就任。
2020年美濃加茂茶舗を運営する「株式会社 茶淹(ちゃえん)」を設立。